日本人は概ねそうかもしれないが、私はヴァカンスというものができない。
普段からぼーっとしているからというのもあるだろうが、貧乏性からか、旅というと何かをせずにはいられず、故に何かがある場所でないと行こうとしない。
結果として、リゾート地というものにはほとんど縁がない。
なので、自分からはまず行かないのだが、たまたま機会があり、グアムに行くことになった。
実際のところ、全く期待していなかったのだけれど、これが意外にもなかなかおもしろかった。
よって、ここに簡単に滞在記を記すことにする。
【国旗、国旗、国旗…】
時は、アメリカ中枢同時テロの後である。
空の便は一応正常化し、キャンセルにもならなかったし、取り敢えずしばらくは大きな動きもなさそう、ということで、予定通り行くことになった。
時期も時期なので、一見不謹慎のようでもあるが、キャンセルしないことがアメリカの航空会社や観光業者その他もろもろのためにもなるのでは、とも考えた。
でもまあ、要するに総合的に判断して行った方がいいという判断となった。
案の定というか、飛行機はがらがらだった。
グアムに着く。
街を歩くと、人が少なく、閑散としているように見える。
グアムは初めてなので、普段と比べることはできないけど、明らかに人がいない。
後から現地で働いている人に聞いたら、やはりいつもより随分観光客が減っているようだった。
この調子だと、倒産するホテルなどもでてくるだろう、ということだった。
観光で成り立っている場所というのは、人が来なくなったら完全にアウトである。
平和とは、人が安心して行き来できることであり、観光はそれを大前提としているものなのだ、ということを痛感する。
グアムのことはほとんど何も知らなかった。
旅行パンフレットではサイパンとセットになっていることが多いけれど、ここはアメリカ領である。
といっても、グアム州というのがあるわけではなく、準州ということになっている。
そのせいもあってか、また地理的、歴史的背景によってなのか、ハワイよりも住んでいる人たちも訪れる観光客も、かなり庶民的であるような気がする。
最初はただ綺麗なビーチと強い太陽と、どこでも日本語が通じる店があるばかりで、退屈なところだと思った。
それが、何日か過ごし、路線バスで島を回ったりしていくうちに、だんだんおもしろくなってきた。
私には、グアムはハワイより随分相性がいいように思われる。
なにしろハワイではなかなか悲しい思いをさせられた。
英語が通じないというのも悲しかったし、ワイキキの日本人の多さはとにかく異常で、いくら日本語が通じても、なんだか日本人が蔑まれ、拒否されているように感じた。
ショッピングモールも高いものばかりで、買いたいものもほとんどなかった。
それが、グアムでは、日本語の通じ方はハワイ以上なのに、不思議にそれが嫌な感じがしない。
現地の人も、それが完全に日常で普通で自然なことになってしまっている感じがする。
日本人は大事なお客さんだから、というのはもちろんあるだろうけれど、心情的に拒否されていないように感じた。
まあ、これは、私の精神状態によるところが大きかったのかもしれないけれど。
それに、観光客の少なさが、私にとっては幸いしたのかもしれない。
ともかく、おかげで、楽しく観光もし、地元の人と混じって買い物したり食事をしたりできたのだった。
何より、日本から3時間ちょっとで行けて、時差もほとんどないところがいいよな。
準州とはいえ、グアムはれっきとしたアメリカである。
とにかくアメリカ国旗をよく見た。
国旗をつけて走っている車がたくさんいる。
ショッピングモールには、小学生が「自由の国、アメリカ」に向けて書いた作文が掲示されている。
テレビでは、テロに関するCNNのニュースが流れ続けている。
空には、アメリカ空軍の飛行機が飛んでいる。
【肉食の土地】
現地では、大抵ひとりで食事をしていた。
ひとりでレストランは入りにくいし、高いので、ほとんどショッピングモールのフードコートに行った。
これが、結構良かった。
まあ、シンガポールのフードコートや台湾の夜市のヴァラエティーの豊かさと安さには比べるべくもないが、少なくともコンビニ弁当を一人で家で食べるよりは余程ましだ。
選択肢が多いし、出来立てだし、人との交流もある。
ただ、コーラなどの炭酸飲料で食事を流し込む、というのは私にはどうもできないので、ほとんど飲み物がソーダ類しかないのには困った。
ショッピングモールのフードコートにある定番は、ピザとパスタの店、タコス、ハンバーガー、サンドイッチ、日本食、中華料理、韓国料理、フィリピン料理、などである。
セットで5ドル前後ぐらいだから、大体値段としては日本のファーストフードと変わらない。
私が気に入ったのは、ブロッコリーとほうれんそうのスタッフドピザというやつ。
あとは、日本でもおなじみのサブウェイ・サンドイッチでは、本場はパンの種類は5種類もあって、感激なのだった。
グアムに住んでいる人に聞いたら、グアムではシーフードはほとんど輸入品なので、食べるんだったらステーキとかの方がいいよ、ということだった。
アメリカと言えば、やはり、まずはステーキ、そして家庭ではバーベキュー、である。
そういうところで肉が食べられない、とかいうことになれば、かなり不自由な生活を強いられる。
周りに自分は肉食はしないということを宣言しなければならないし、そうすることは、つまり、アメリカの伝統食、家庭料理を拒否する、という大げさに言えば「反社会的」なことになってしまう。
そうすることはかなりの勇気を必要とするのだろうし、だからそこまでするという人はかなり特殊な人だと思われる。
中華系の素食屋を道路沿いに見かけたけど、そういう土地においては、なんとなく非常に「特殊な店」という感じがしてしまうし、たぶん実際そうなのだろうと思う。
日本においては、例え肉を食べないとしても、肉を使わない日本料理とか家庭料理は成立する。
肉の代わりに豆腐とかがんもどきとか別のものを使えば立派に日本料理になる。
中華料理でもそうだ。
でも、肉を使わないステーキとかバーベキューというものはそもそも成り立たないのだ。
これはかなり厳しい環境だ。
だから、ひとくちに「ベジタリアン」といっても、アメリカにおいてと日本においてと台湾においては、その意味合いは全く違うのだ、と思った。
ただし、ニューヨークとかに行けば、全然事情は違ってくるんだろうけれども、たぶん。
アメリカ圏に行ったら食べようと思っていたソフト・プレッツェルを食べる。
その場で注文してから焼いてくれるのが良い。
おいしかった。
けど、それよりも、プレッツェル屋のバイトの女の子が、仕事の合間に、たぶん昼ごはんなのか、ポテトチップスにチリソースをかけて食べていたのが印象的だった。
アメリカ人は食事にポテトチップスを食べる、というのを聞いたことがあったけど、なるほど、こういうことだったのか、と妙に納得した。
【グアムで潜る】
暇なので、ダイビングをした。
ダイビングは一応ライセンスは持っているけど、日本では海があるところまで行くのが大変だし、ずいぶん長い間潜っていない。
しかも、いわゆるトロピカルなところで潜るのは、実は初めてである。
ブランクが長いので、1日目はビーチダイビング。
とにかく、水の透明度はすごい。
沖縄は別にして、同じ海で日本となぜこれだけ違うのか、と思う。
砂浜の白さ、サンゴ礁の海の水深の浅さ、太陽光線の強さ、などが違うからなのだろうか?
水は透明。
珊瑚はきれい。
魚はたくさんいる。
しかも、気温も水温も30度、というのがもう信じられない。
こんなところで潜ると、ぶるぶる震えながら透明度も低い海に潜るのが馬鹿らしくなってくる。
観光地で水の中にタワーが建っていて、窓から海中を覗ける、というところがある。
そこを、外から、海中から建物の中を覗く。
観光客がたくさんいれば、驚かせることもできて、手を振ったりコミュニケーションも取れるところのはず。
でも、誰も観光客がいなくて、虚しく誰もいないタワーの中を覗いて帰る。
本当に、観光客の少なさは深刻だ。
2日目は、ボートダイビング。
いくつかのショップが一緒に同じ船に乗り込んでいるので、人数も多くなって今日はにぎやか。
グアムの海はほとんどサンゴ礁で、波もほとんどないので、船に弱い私でも全く酔わずにすんで非常に助かった。
ポイントに向かう途中で、イルカに出会う。
水が本当に透き通っていて、水深も浅いので、船の真下を泳いでいるイルカの姿がありありと見える。
すごい。
今日のメインのポイントは、有名なブルーホールではなくて、クレバスというところ。
でも、すごくきれい。
あっという間に30メートルぐらい潜ってしまう。
視界は、どこまでも見えている。
どこまでも潜っていってしまいそうだ。
サンゴ礁の上を、たくさんの魚たちと一緒に泳いでいると、まさに龍宮城のようである。
ああいう体験ができるのは、ダイバーの幸せだ、と思う。
地上では、絶対にあんな体験はできないから。
私は日本から持っていったグローブをしていたのだけれど、グアムではグローブはあまりしないという。
理由が興味深かった。
グローブをしていると、安全だからつい、手で珊瑚を触ってしまい、珊瑚を傷つける恐れがあるから、あまりしない方がよいのだそうである。
同じ理由で、オーストラリアではグローブは「してはいけない」そうだ。
グアムでは、「してもいいけど、しない方が望ましい」、という。
日本では、人間が傷つかないようにグローブをするのだろうけれど、発想が全く逆だ。
でもそれだけじゃなくて、日本の海は水温が低いから、保温の観点からグローブをする習慣なのかもしれないけれど。
野生というものに対する考え方の違いを見たようだった。
【島を一周する】
暇なので、島を一周してみようとバスに乗る。
「ROSEN」と書いてある路線バスに乗る。
路線といいながら、ちゃんと運転手さんがガイドもしてくれる。
客は私以外には金沢から来たというカップルが1組だけ。
島には何もないと思ったら、結構意外にいろんな観光ポイントがあった。
マゼランが600年前に上陸した浜、とか。
熊の形をした岩(BEAR ROCK)、とか。
運転手さんに頼んで、めずらしく自分の写真をあちこちで撮ってもらう。
できてきて見たら、なんだか新婚旅行の写真のようだった。
ガン岬(GA'AN POINT)という場所があった。
日本とアメリカが戦った場所だった。
あまりに美しいビーチだった。
戦争したときも、今と同じ、いやもっと、きれいな海だったのだろう。
防空壕が、今もそのまま残っていた。
今は公園になっていた。
そこには、アメリカの国旗とグアムの旗と一緒に、日本の日の丸も揚げられていた。
なんだか、じーんとしてしまった。
戦跡でも、こんなところもあるんだ、と思った。
戦争の記憶というのは、片方だけが乗り越えようと思って乗り越えられるものではない。
双方が努力して、初めて乗り越えられるものなのだ、と思う。
たとえば、中国の戦跡で、こんな形で日の丸が揚げられる日が、果たして来ることがあるだろうか、と思わずにはいられない。
この道を行けば、横井さんがいた洞窟に行ける、という道を通る。
横井さんは、日本語ではただの「横井さん」と呼ばれているけれど、グアムではSergeant Yokoi, と今でもしっかり敬称をつけて呼ばれている。
ただ軍人だということを表す呼称なのかもしれないけれど、そこには尊敬の念が含まれているような気がして、ちょっと胸が熱くなった。
たぶん、戦争のことを思ってグアムに行く人など、今はほとんどいないと思う。
でも、あの日の丸と、Sergeant Yokoiに出会えたことは、私にとってはとても幸せなことだった。
市内に戻ってきて、グアム随一の観光地といわれる「恋人岬」(TWO LOVERS' POINT)に一応行ってみる。
確かに、断崖絶壁で見晴らしは素晴らしいところ。
でも、崖の上にある展望台以外には何もなくって、30分後のバスが来るまで、暑い中時間をつぶすのが大変だった。
どうやらそこにはチャペルがあるようだ。
「幸せの鐘」みたいなのの前に、カップルの名前入りの金色のプレートがたくさんついている石碑があり、どうやらそこのチャペルで結婚式を挙げたカップルの名前のようである。
見事に、日本人ばっかり。
グアムの「恋人岬」で式を挙げ、そこに名前が残されるような結婚式。
そういうのを「素敵ー!」と思って憧れてわざわざやってきて結婚する人たちが、こんなにたくさんいるんだ。
なんだか、自分からは本当に遠い遠い世界にいる人たちである。
でも、もしかしたら、そういう「恋人岬」で結婚式を挙げることを素直に憧れられるような人生って、本当に幸せなのかもしれない、という気もする。
寒々としたものをなぜか感じてしまいながら、そこから10万光年ぐらい離れている自分の方が寒々しているのかも、と、なんとも寒々しい気分の「恋人岬」ではあった。
その他にも、スペイン時代の面影が残っている場所とか、素敵なカトリック教会など、見所が結構あった。
眺望からいえば、私的には恋人岬よりも、ハガッニャ地区のアプガン砦がお勧め。
といっても、そこまでわざわざ行く人なんて、あんまりいないかもしれないけど。
【買い物】
グアムのDFSは、妙に庶民的なところである。
私は自慢じゃないが、香港だろうが台湾だろうがハワイだろうが、DFSで買い物したことなど全くない。
ブランド物など全く興味がないので、買うものなど何もないのだ。
それが、グアムのDFSは私でも買いたくなるようなものが結構あって、結構散在してしまったのだった。
こんなこと、生まれて初めてである。
それから、グアムのショッピングモール。
結構、ディープである。
というか、ローカル度が高い。
観光客より、地元の人がたくさん、買い物や、食事や、遊びのために家族連れで、友達同士で、行っている。
スーパーマーケットに行くと、どでかいカートにたくさん、みんなまとめ買いしている。
私は結局、なぜかキッチン用品ばかり買い込んでしまった。
タオルとか。秤とか。瓶とか。ドレッシングとか。
グアム製、というものはほとんど何もなかった。
トルコ製とか、中国製、そしてせいぜいアメリカ本土製。
お土産は、仕方がないので、アメリカ本土製のものを買った。
【出国】
ハワイのときもそうだったけど、アメリカというのは不思議な国で、出国審査というものがなく、よって、パスポートに出国スタンプも押されない。
どうしてなのかは知らない。
それで不都合がないのかもわからない。
でも、搭乗券をもらって、飛行機に乗って、そのままいつのまに出国している。
入るときは、結構厳しいのに。(日本人はほとんどフリーパスだけど。)
不思議なところである。
とにかく飛行機でたった3時間。
時差もほんの1時間。
近くて、海もきれいで、日本語も通じて、アメリカ気分も味わえて、その他いろいろな印象深い経験もできて、グアムもなかなか侮れないところであった。
機会があれば、行ってみるといいと思う。
(おわり)
(2001年10月)