レスリー・チャンが喚起するもの

昨日、「金枝玉葉2・ボクらはいつも恋してる!」(1996年香港)という映画を見た。「ラヴソング」のピーター・チャン監督による映画で、ほのぼのとしたコメディーでありながら、同時にシリアスでもあり、また社会的に問題提起をする問題作でもある。

それはさておき、レスリー・チャンの映画を見た後は大抵そうなのだけれど、なんだか身体の中がざわざわして収まらない。
今回の映画自体、性別が意味をなさずに混乱している世界だったのもあるが、やはりレスリー・チャンという人にはなんともいえない妖しさが漂い、その妖しさが私の中に細波を立てる。

彼自身が同性愛者であるという噂は公然であり、彼自身も特に否定しないようなので恐らくその通りなのであろう。製作者たちもそれを知ってか知らずか(知らないわけがない)、彼が出演する映画は同性愛がらみのものが多い。かといって、ちゃんと女性相手の二枚目男性役もこなすし、実に不思議な人なのである。

彼の出世作といえば「さらばわが愛・覇王別姫」で、その役も女を演じながら男を愛する役者だった。そのすぐ後に作られたのが今回見た「金枝玉葉2」で、これはまた特別に複雑な世界である。
2というからには前作があるわけだが、前作では男装して男のふりをしているヒロインを、本当は女性だと知らずに好きになり、『自分はゲイではないのか?』と真剣に思い悩み(レスリーが真剣にそういう役を演じているところがかわいくて仕方がないのだ、実に)、その挙句に、『君が男だろうが女だろうが関係ない』という境地まで達して相手への愛を自分の中に受け入れる。その「愛は性別を超越したところにある」ということが、ピーター・チャン監督の、そしてレスリー・チャンのメッセージだったのだと思う。この話では相手が男装の女性だったので結果的にはストレートカップルに なったわけだが、仮にこれが本当に男性だったとしても、それが一体何だというの?という暗喩である。

続編にもそれはしっかりと受け継がれている。ヒロインと一緒に引っ越してきた幼馴染の男との奇妙な3人暮らし。実質は男女のカップルなのに,世間的には男同士のゲイカップルだと思われていること。性的関係もなくヒロインと暮らしてきた幼馴染が、同性愛者の女性を好きになって、女装して気を引いた挙句に結局は男女として関係してしまうこと。レスリーと関係しながら、またヒロインを女 だと知りながら、ヒロインを愛してしまう女。実に性的倒錯・混乱に満ち満ちた世界なのだ。

そのなかで、心に残るのは、ヒロインを好きになる女性がやはり言う『あなたが男でも女でも愛している』という台詞と、ゲイだと世間に誤解されるのを散々嫌がっていたレスリーが、『あなた方の関係が公然となったことで自分たちは開放された』というゲイカップルに対して、自分たちはゲイではないと弁明することなく、『世間がどう言おうと関係ないじゃないか』というようなことを言う最後 の方のシーンである。そういうところに、「愛は世間体とか見栄とか、既成概念なんかで左右されるものではない」というメッセージが明確に現れ、実に感動し幸せになれた映画だった。

にしても、このざわざわは止まらない。単に私がレスリーのファンだといってしまえばそれまでなのかもしれない。でも、一体自分が彼の何に惹かれているのか、を考えた時、どうもそれだけでは済まされないような気がする。

そのことを自覚したのはウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」を見た後だった。あの時もざわざわは1週間以上続き、それは今回の「金枝玉葉2」の比ではなく、これは一体なんなのか、と考えたとき、どうも私は「同性愛者としてのレスリー」に強く惹かれてしまうのではないか、と思い当たった。しかもそれが、自分が女性で男性としてのレスリーに憧れるのではなくて、自分が男性だったと仮定した場合の男性の相手としてのレスリーに惹かれている、という実に倒錯した感情だということに気づいたときは、結構ショックで唖然とした。映画によって喚起された少し現実離れした感覚だとは言っても、潜在的にそういう願望が自分の中に存在することは確かなのだ。

でも、考えてみれば、この手の願望は特に珍しいわけではなく、一時少女漫画界で流行った「美少年同性愛物」を愛読していた少女たちはみなその憧れを持っていたはずである。それを読みながら、明らかに彼女らは、女性としてではなく、男性として、同性愛少年に自己投影しながら読んでいた。そういうのは、自分の女性性への拒否、とか、心理学的にはきちんと説明できることなのだろう。なん か、そう言ってしまうと身も蓋もないけど。

まあ、そういった自分の中の隠された願望などを引っ張り出してくれたりするところも含め、やっぱりレスリー・チャンは私にとっては一番好きな香港映画俳優なのだ。彼には、公私共に幸せに、いつまでも若々しくがんばって欲しいな。去年撮影された、常盤貴子と共演した映画が今年公開されるはずだが、それを見たらただでさえ好きでない常盤貴子がますます嫌いになってしまいそうでちょっとやばい。
松ちゃんを取った上にレスリーまで取るな〜!

(Mar. 8, 1999)

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