「ビバリーヒルズ高校白書」ディラン・マッケイに捧ぐ

NHK総合でやっていたアメリカの学園ドラマ、「ビバリーヒルズ高校白書」が最終回を迎えた。洋物のドラマにはめったにはまらない私がひょんなことからたまたま見始め、以来ほとんど1度も欠かすことなく夢中になって見てきた。このドラマには本当にいつも感心させられ、考えさせられ、登場人物たちとともに涙してきた。このドラマについて何か書きたいとずっと思ってきたけれど、とうとう今になってしまった。追悼文のようになってしまったけれど、やはり少し書かずにはいられない。

このドラマで感心させられたことは多々あるけれど、特筆すべきは登場人物たちの魅力である。これは、一見華やかなアメリカのリッチな高校生活のドラマであるが、彼等はその見かけの華やかさと明るさからは想像もできないような問題をそれぞれの中に誰もが抱えている。主な登場人物は8人いるのだが、そのうちの実に4人が離婚家庭である。そして、親が汚職で逮捕されているもの、親あるいは本人がアルコールおよび薬物中毒であったもの、学習障害があるもの、ギャンブル中毒のもの、拒食症のもの、などなど。そして、毎回話はかならず何かしらの社会問題が含まれる。エイズ、レイプ、人種問題。こう書くと、いかにもドロドロの社会派ドラマのようだが、全くそうではなく、彼等はあくまで明るくポジティブで、楽しい高校生活を謳歌しつつ、お互いの思いやりでさまざまな問題を解決しようとし、成長していく。

なかでも、私が最も好きだったのは、ディラン・マッケイという男の子である。おそらく彼が、最も深刻なものを自らのうちに抱えていたと思う。幼少のころに両親が離婚し(しかも父母ともに強烈な個性の持ち主である)、実業家の父親の元で成長するが、父親が汚職で逮捕され、たった一人で生活しながら、犯罪者の息子という社会的圧力と、経済的困窮に耐えている。アルコール中毒歴、薬物中毒歴があるが、今は立ち直っている。でも、辛い状況になると、また以前のように戻りそうになる欲求を止めることができない。サーフィンとバイクが好きで、非常にセンシティブでもろく、不安定で破壊的な、しかし誰よりも純粋な人である。偽善的な大人の世界に染まることを何よりも嫌う。実に愛すべき人である。

彼は、主人公の女の子ブレンダと恋をするのだが、そんな彼だから、彼等の恋はジェットコースターのような、剃刀の上を歩いているような感じである。ブレンダは対照的にごくまともな家庭であまり問題もない女の子なので(だから逆に「いい子」でなければいけないという抑圧も強いと思うが)、二人の間には常に理解できない、してもらえない、深い溝がある。それでも、時間をかけて、二人で溝を少しずつ埋めていく。しかし、彼女の両親は(特に父親は)、どうしても彼を認めようとしない。リベラルであるつもりの両親も、やはり世間と同じように、犯罪者の息子として見ていることに気付き、彼女は家を出て、彼のところに行く。親が彼を認めてくれるまで帰らない、という彼女だったのだが、常に一緒にいる生活のなかで、彼等の仲は少しずつ息詰まるものとなっていき、それを打開するために彼女が夏休みにパリへ行ったことで、結局は破局に向かうことになってしまう。 性格的にも生活環境も全く違うように見えた彼等二人が、一歩一歩辛抱強く歩み寄って行くのが本当にいじらしく、胸をえぐられるようであったので、結局彼等が別れなければならなくなったことが実に残念で、心が痛む。そのことだけが、このドラマの心残りだった。

恋愛のほかに、もうひとつ、ディラン・マッケイには彼と父親との関係という大きなテーマがあった。汚職で逮捕されていた父親が、FBIとの取り引きで早く出所し、つかのまの和解を楽しむのだが、仕組まれた事故により目の前で父親が殺されてしまう。今度こそ本当に一人になってしまった彼に、内なる自分が、酒を飲めば楽になる、父親を憎めば楽になる、と誘いをかける。そんなもうひとりの自分に対して、「もう昔のようには戻りたくない、そんなことをしてもただの逃げだし、自分はもう逃げ出したくない」ときっぱりと宣言したとき、そこに現われたのは、親の愛情を得られずにひとりで寂しがっていた、小さなときの自分、インナーチャイルドだったのだ。そして彼は、小さな自分を、優しく抱きしめ、慰めてやったのだ。あれには本当に驚き、ショックを受け、泣いた。そして、深層心理学までも人気ドラマに盛り込んでしまうアメリカというところは、とんでもないところだとつくづく思った。

今彼は、ケリーという、ブレンダと比べればずっと不安定で彼に似ている女の子とつきあっている。でも、彼女ともどうなるのかよくわからない。そんなことより、彼はもっと世界を広く、深く知ることのできる人だと思っている。文学的興味も才能もある。おそらく最も破壊的で危険な時期はもう過ぎたと思うけれど、彼には人生を大切に過ごしていってほしいと思う。

「高校白書」に続いて、彼等がUCLAに進んだ後の話「ビバリーヒルズ青春白書」が始まる。実は、これはすでに衛星放送で先に放映していたので、1、2回ほどちらっと見たことがある。でも、ちょっと見た限りでは、高校のときほど明るく、楽しそうには見えなかった。
願わくば、彼等の前途が明るいことを。

(NOV. 29, 1996)

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